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第11号 2008年12月
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ごあいさつ はや秋も深まり、間もなく冬を迎えようとしていますが、私たち都市発展記念館にとって、秋といえば、読書の秋でも食欲の秋でもスポーツの秋でもなく、「鉄道の秋」であります。 1872年10月14日(明治5年9月12日)、日本最初の鉄道が新橋―横浜間に開通し、初代横浜駅が誕生しました。この開業日は古くから「鉄道記念日」とされていましたが、1994(平成6)年から「鉄道の日」と呼び名があらためられ、毎年この日の前後には、多くの鉄道関係のイベントが開催されています。 当館でも「鉄道の秋」にふさわしく、横浜駅の誕生から現在までを紹介する企画展「横浜ステーション物語」を開催中です。四代にわたる駅舎の歴史とともに、横浜という都市がどのように変化していったのか、都市の発展と鉄道との深いかかわりを感じ取っていただければ幸いです。 そして現在、当館の真下には、横浜と元町・中華街とを結ぶみなとみらい線が通っています。私たちと同じく、この路線も来年2月でちょうど開通5周年を迎えます。 これを記念して、日本大通り駅のコンコースでは、みなとみらい線各駅の過去から現在までの風景を紹介するパネル展示を開催中です(来年2月まで)。 駅の真上の博物館。雨の日でも雪の日でも傘要らずの当館で、皆様をお待ちしております。 |
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みなとみらい線各駅停車 |
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平成20年、横浜都市発展記念館は開館5周年を迎えました。そして、平成21年2月には、みなとみらい線が開通から5周年を迎えます。これを記念して同線の日本大通り駅コンコースでは、パネル展示「みなとみらい線各駅停車」が開催中です(主催=横浜都市発展記念館・横浜高速鉄道株式会社、期間=平成20年10月11日〜平成21年2月下旬)。 横浜、新高島、みなとみらい、馬車道、日本大通り、そして元町・中華街。この特集では、各駅周辺の昔の風景を紹介しながら、横浜の歴史をふり返ってみましょう。 |
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![]() 3 「横浜港平面図」(部分) 昭和13年/当館所蔵 現在の新高島駅のある付近に高島(貨物)駅があった。 |
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![]() 1 吉田初三郎・作「横浜市鳥瞰図」(部分) 昭和10年/当館所蔵 図中央の海面が現在のみなとみらい地区である。 |
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![]() 2 横浜船渠(ドック) 『横浜の港湾』横浜市港湾部(昭和2年)より/当館所蔵 現在のみなとみらい地区には、船の建造・修理を行う船渠(ドック)があった。 |
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![]() 1 「御開港横浜大絵図二編 外国人住宅図」(部分) 文久2年頃/当館所蔵 幕末に描かれた横浜の外国人居留地。現在の山下町付近。堀川を渡ると現在の元町地区である(図左側)。 |
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(岡田 直) |
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日本大通り URANIWA-Labo 〜私たちの実験場へようこそ〜 |
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この夏、都市発展記念館とユーラシア文化館では、開館5周年を記念して、皆様の思い出の宝物を集めて展示した「みんなでエキスポ―小さな万国博覧会―」をはじめ、さまざまな企画を実施しました。今回ご紹介する「日本大通りURANIWA-Labo」もそのひとつです。 「日本大通りURANIWA-Labo」とは、私たちの中庭を、日本大通りから一歩入ったところにあるURANIWAと見立てて、アートな空間に演出しようという実験的な試みです。私たちが加盟している日本大通り活性化委員会との共催で、同じく活性化委員会の加盟事業者である株式会社ありあけ、ギャルリーパリ、ZAIMのご協力をいただきました。 私たちの中庭がちょっとアートなURANIWAに変身した3日間をご紹介しましょう。 |
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「みんなでエキスポ」展のオープンに先がけて、6月2日の開港記念日にURANIWA-Laboの口火を切ったのは、アーティスト TITOSE による「書」のパフォーマンスでした。 テーマは「水と線」。ランダムに配置された長さ10mの紙を航路に見立て、その上に水を撒(ま)き、若山牧水の短歌「白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ」を画いていきます。 |
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ところが、残念なことに当日は雨。しかも開始時間が近づくにつれて雨が強くなってきたため、急きょ、屋内でのパフォーマンスに変更しました。しかし集まったギャラリーにとっては、目の前でTITOSEの筆づかいが見られる貴重な体験となったことでしょう。 やがて雨が小降りになったところで、「やっぱり外でやりたい!」とのTITOSEのリクエストで、舞台をURANIWAに移してパフォーマンスを再開しました。鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように筆を走らせるTITOSE。紙を押さえるアイテムには、山下町で出土した明治時代の煉瓦を使用しました。失われた過去の都市の断片が、現代のアートに力を添えます。 URANIWAいっぱいに広がる白い航路。そして水に溶けゆく牧水の歌。TITOSEの世界を堪能しました。 |
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「みんなでエキスポ」展も終盤に差しかかった8月22日と23日の2日間は、「トワイライト☆エキスポ」と題して、夕方から夜にかけてのプログラムを組みました。 |
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まずは、今年結成されたばかりの半アウトドア型都市考察集団『マウンテン事務所 川嶋貫介+鈴木悠子+藤川直美』によるインスタレーション「VOLCANO 〜都市生活者のためのアウトドア術〜」。都市に住む人々にとって大自然とは何かをテーマに、URANIWAにユーラシア大陸の山々をイメージした火山が出現しました。 建築家・写真家・美術作家からなる制作ユニットが提案する、今までにない都会のアウトドアライフは、ちょっとユーモラスで、ちょっとシニカル。日が暮れてからのVOLCANOは、噴火の煙に包まれてとても幻想的でした。 そしてアートな夕べのプログラムはもうひとつ。夜のURANIWAでの映像上映です。題して「URANIWALabo 記憶と記録の裏庭」。建物の外壁をスクリーンにして、巨大な映像空間を作り出す試みです。 アートディレクターに瀧健太郎を招き、当館が所蔵する戦後のニュース映画「神奈川ニュース」と、現代作家(横田将士、カルロ・サンソーロ、大江直哉、佐原和人、エリカ・フランケル、瀧健太郎)による記憶・記録をテーマにした映像作品を、交互につなぎ合わせて投影しました。 現代アートのなかに突如挿入される、昭和30年代の横浜の世相。噴火を続けるVOLCANOの煙にいざなわれ、夜のURANIWAは過去と現在が交差する異空間へと早変わりしました。 |
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3日間ともあいにくの雨模様でしたが、歴史とアートのコラボレーションはいかがだったでしょうか。普段のURANIWAは、パラソルのあるテラスでのんびりくつろいでいただける場所です。通りの喧騒から離れてちょっと一息つきたいとき、どうぞURANIWAへお越しください。![]() 都会の中のちょっとおかしな風景 |
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(青木祐介) |
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〜常設展示より 昭和はじめの野澤屋百貨店 |
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横浜松坂屋のルーツ 本年(2008年)10月26日、伊勢佐木町を代表する百貨店として親しまれてきた横浜松坂屋が閉店しました。同店のルーツは元治元(1864)年、弁天通り二丁目に茂木(もぎ)惣兵衛が創業した野澤屋呉服店にさかのぼります(創業年には諸説あります)。野澤屋は明治43(1910)年に伊勢佐木町一丁目に支店を開設、大正10(1921)年には鉄筋コンクリート造4階建ての新館を現在地に竣工させ、横浜の百貨店で東京の三越、京都の高島屋に肩をならべることができるのは、野澤屋ぐらいだと言われたのです。 |
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百貨店の時代 大正末期から昭和のはじめにかけて、百貨店は都市生活のなかで大きな位置を占めていきます。『横浜貿易新報』(昭和9(1934)年11月7日)はデパートを「近代生活党のオアシス」と評し、「見合によし、ランデヴーの待合せによし」と観察しています。洋服を着たモボ・モガが伊勢佐木町を闊歩(かっぽ)したこの時代、デパートは物を売るだけの場所ではなく、社交の場あるいは家族の行楽の場としても重要な役割を果たしていました。 |
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野澤屋の古写真 |
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写真1は昭和10年末の野澤屋の年末年始の贈答品カタログです。洋装の女性のイラストからモダニズムの香りが漂ってきます。写真2は横浜駅・桜木町駅と野澤屋を結ぶ無料送迎バスです。昭和3年から運行が開始され、横に並ぶ洋服の女性車掌たちは東京の松坂屋銀座店で指導を受けています。写真3は野澤屋のメッセンジャー・ボーイで、華やかな服装で街を自転車で飛び回り、子供たちの憧れの的となりました。 昭和初期の伊勢佐木町近辺には野澤屋以外にも寿百貨店・松屋・相模屋などの百貨店があり、横浜の文化と活気を生み出していました。戦後横浜駅周辺の発達にともなって伊勢佐木町は往時のにぎわいを少しずつ失っていきますが、横浜松坂屋の閉店は横浜の繁華街の変遷を物語る象徴的な出来事に感じられます。 |
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〈参考文献〉 『横浜市史II』第1巻下(横浜市、1996年) 平野正裕「実業雑誌と『実業之横浜』」『開港のひろば』第98号(2007年) ノザワ松坂屋編『野沢屋から横浜松坂屋へのあゆみ』(有隣堂、1977年) |
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ダムに沈んだ村 宮ヶ瀬の風景 |
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横浜市街から西へ40キロ、相模川上流の支川・中津川に首都圏最大の規模を持つ宮ヶ瀬ダムと巨大なダム湖(神奈川県愛甲郡清川村・愛川町・相模原市)があります。横浜市を含む県内東部の15市7町に水道水を供給する神奈川県の水がめです。横浜の近代水道はイギリス人技師パーマーによって明治20(1887)年に開かれましたが、そのときも相模川上流(現相模原市津久井町三井)から取水されています。水道を通じて横浜と相模川上流の水源地帯は歴史的に深いつながりがありました。 宮ヶ瀬ダムの工事は昭和62(1987)年にはじまり、平成13(2001)年に完成しました。水が蓄えられてダム湖が姿を現すとともに、それまで人が生活を営んでいた村は山あいに沈んでいきました。今回紹介する写真(堀江忠男氏撮影・寄贈)は昭和55年から60年頃に撮影されたありし日の宮ヶ瀬(清川村)の風景です。観光地としてにぎわいを見せるダム周辺ですが、その湖底にはダム建設のために故郷を失った人々とその暮らしがありました。 |
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〈参考文献〉 ふるさと宮ヶ瀬を語り継ぐ会編著 『ふるさと宮ヶ瀬―渓谷の村から』(夢工房、1997年) |
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[寄贈資料の紹介] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
平成20年4月から8月までに新しく寄贈していただいた資料です。(敬称略) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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編集後記 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
平成20(2008)年も残すところわずかとなりました。今年は横浜都市発展記念館の開館5周年にあたり、本誌創刊から5年が過ぎました。次の5年間も誌面のさらなる充実に向けて取り組んでいきたいと思います。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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