○ 形態 |
『横浜グラフ』は台紙(横37.5×縦25.2cm)に写真プリントとその解説ラベルを貼付し、台紙右端の4つの穴を紐で綴じたアルバムである。表紙(横37.8×25.5cm)には「横浜グラフ」「横浜 国際写真通信社 発行」と印刷されている。「横浜グラフ」のタイトル文字背景のデザインは横浜市章を象ったものである。 写真プリント(長辺15〜15.5cm前後、短編11cm前後のキャビネ版に近いサイズ)と100〜200字程の解説ラベルは、国際写真通信社より会員(読者)に送付されていた。つまり、『横浜グラフ』は「写真報道誌」とも言える。今回当館以外の所蔵機関の『横浜グラフ』を比較調査した結果、1枚の台紙に貼付される複数枚の写真の組み合せが同一なこと、台紙上の写真・解説ラベルのレイアウトがほぼ同じことが判明した。写真・解説ラベルはあらかじめ台紙に貼付された状態で会員のもとに届けられたようである。国際写真通信社は中区太田町1−15を住所とする通信社であるが詳細は不明である。 |
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◆ 図1 『横浜グラフ』 | ◆ 図2 『横浜グラフ』台紙 |
○ 内容 | ||||
『横浜グラフ』は昭和9年(1934)の横浜で発生した様々な社会的事象を網羅・収録している。船舶の来航・出港、有名人の来浜(来日)・帰国、青年会・婦人会の催し、展覧会・演説会、スポーツの試合、花まつり・潮干狩りなどの年中行事、珍奇ペットの飼育といった新しい風俗等々、新聞の社会面を飾るような出来事が紹介される。鮮明な写真とコンパクトな記事から、昭和初期の「モダン都市」化した横浜の社会と生活の様相が実によくうかがえる。 最初の10枚の解説ラベルには日付の記載がないが、当該期の新聞記事等から昭和9年3月上旬の記事と推定できる。また『横浜貿易新報』(昭和9年3月1日付)に載る『横浜グラフ』の広告には「3月創刊」と謳われていて、「創刊」日時をおおよそ確定することができよう。当館所蔵『横浜グラフ』の最後の解説ラベルの日付は12月25日で、台紙は147枚、貼付された写真は306枚、解説ラベルは265点にのぼる。 |
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◆ 図3 解説ラベル | ◆ 図4 横浜グラフ創刊の広告 『横浜貿易新報』 (昭和9年3月1日) |
○ 他館の所蔵状況と当館『横浜グラフ』の特色 |
『横浜グラフ』は当館以外にも、横浜市史資料室(貼付写真109枚)、横浜市中央図書館(同246枚)、神奈川県立図書館(同168枚)の各機関に所蔵があるが、一冊の製本された「雑誌」ではないため機関によって内容に異同がある。しかし、当館の『横浜グラフ』に収載されていない写真・解説ラベルを他機関に見出すことはできず、当館のものがもっとも完全なかたちに近い。当館所蔵本には、さらに40頁(枚)分の台紙に昭和12年(1937)6月2日・3日の埋立祝賀開港記念祭に関するチラシ類と、同記念祭の行列等を撮影した写真プリント71枚が貼付された台紙が、ともに綴じ込まれていた。これは原蔵者がのちに追加したものであろう。 |
○ 公開の意義 |
『横浜グラフ』の写真は当館の常設展示で使用され、さらに近年さまざまな刊行物でも紹介されており、特段目新しい資料とは言えなくなっている。しかし、『横浜グラフ』は解説ラベルにも魅力があり、鮮明な写真とあいまってその資料的価値を高めている。また1年には少々満たないものの日にち順に通覧することによって、この時期の横浜における生活文化の年間サイクルを確認することもできる。今回の『横浜グラフ』の画像・解説ラベルの全点公開は、昭和初期横浜の社会・生活・文化等の広い分野にわたって多くの知見を提供することになるだろう。 《参考文献》 「資料あれこれ(その九十一) 『横浜グラフ』」『郷土よこはま』126号、1995年 |
(吉崎 雅規) 2009.10.23 (補訂)2010.2.20 |